「今回のJARL選挙は重要と言われるけど、いったい何を選ぶのかよくわからない」という声をよく聞きます。私なりの解説を書いてみました(すみません、長文です。。。)。
そもそも「一般社団法人」って何?
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立される社団法人です。トートロジーのようですが、2006年の公益法人制度改革によって、法人格取得と公益認定が切り離されてしまったので、定義っぽく言うにはこう言うしかありません。それでは立つ瀬がないので、いくつか特徴を述べてみます。
- 「法人」なので、個人とは区別された団体です。法人名義で財産を取得したり保有したりできます。
- 「社団」法人、つまり人の集まりです。財産に法人格を与える「財団」法人と区別されます。
- 法定の要件をみたせばだれても設立できます。2006年以前と異なり、官庁の設立許可は不要です。監督官庁はありません。よく誤解されるのですが、JARLは、総務省や内閣府等に監督される存在ではありません。自律したきちんとした運営が求められます。
- 「公益」法人ではなく「一般」社団法人なので、公益性を有する団体としての税制優遇措置はありません。(2020-03-29追記:ある方から、正確には、一般社団法人のうち「非営利型法人」に該当する(JARL定款62条、63条)ので、一部事業について課税対象から外れる、という税制優遇措置があるとのご指摘を頂きました。ご指摘ありがとうございました。参考資料:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/koekihojin/pdf/01.pdf )
- 一般社団法人も収益事業を行ってもよいのですが、営利法人である「株式会社」と異なり、営利を目的とはしません。もっとも、一般社団法人だからといって、赤字を長年垂れ流し、ついに留保金の底が見えてくる状況を放置することが許されるわけではありません。団体としての継続性が求められるのは当然です。
JARLの「機関」
JARL Webの「JARLの組織」ページでは、「JARLの組織には、社員総会、理事会、監事、地方本部、支部、委員会、および事務局があ(る)」と書かれています。そのうち、法律で決まっている組織(機関)は、「社員総会」「理事会」「監事」だけです。
社員総会と社員
「社員総会」は、「社員」が参加してJARLの基本的な事項を決める会議です。「社員」とは、一般用語の「従業員」という意味ではなくて、法律用語、つまり、一般社団法人を構成する「人」のことです。JARLでは、会員から選挙で選ばれた者が、法律上の一般社団法人の「社員」と扱われることになっています。名称がわかりにくいですね。「社員」は、会員の意見を「社員総会」で代弁する「代議員」と思えばわかりやすいと思います。ですので、さまざまな会員の意見を「社員総会」できちんと代弁してくれそうな人に投票すべきだと思います。ちなみに、社員総会への交通費は出ますが、給料は出ません。
理事会と理事・監事
理事会は、JARLの進む方向性を(原則として)多数決で決める極めて重要な機関です。①全国理事5名、②各エリアからひとりずつ選出される地方理事10名、③理事会が推薦する推薦理事2名の、最大17名の理事で構成されます(JARL規則第26条)。地方理事は、各エリアの本部長を兼任します。
推薦理事2名という枠はなかなか興味深いものですが、以下の基準により推薦されることになっています(JARL規則第27条)。要するに、有識者を招聘するための枠と事務局を総括する専務理事を、選挙によらずに安定的に確保するためのものと思われます(もっとも、専務理事を、推薦理事以外から選ぶことは禁じられてはいません。)。
(1) 正員であって、専門分野における学識経験を有し、連盟の業務執行上適当である者
(2) 事務局の管理者であって、連盟の運営上適当である者
監事は、理事の職務の執行を監査する役割を担います。監事には、理事等に対して事業報告を求めたり、業務及び財産状況の調査をしたりする強大な権限が与えられています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第99条、JARL定款第24条第2項)。理事の行為の差し止めすらできるのです(法第103条)。監事は、理事会によって推薦され、社員総会で選任されます(JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条第2項)。
理事の選任手続
4月に投票が行われる2020年JARL選挙で、①全国理事5名と②地方理事10名の「理事候補者」が決まります。その後、(過去の例では)2020年5月の理事会で、③推薦理事2名の「理事候補者」が決まります。
ここで、「理事候補者」といったのは、いずれも2020年6月に開催される社員総会で承認されないと、正式に理事になることはできないからです(JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条第1項。過去には、選挙で当選したにもかかわらず社員総会で承認されず理事になれなかったケースもあります。その是非についてはいろいろご意見もあろうかと思いますが、今年の選挙について今から制度を変えることはできませんので、ここでは論じません。)。
6月の社員総会の直後に、社員総会で正式に承認された理事によって理事会が開催されます。この理事会で、会長、2名の副会長、1名の専務理事が互選されます(JARL定款第22条)。この互選は、多数決で決まります。17名の「理事候補者」全員が社員総会で承認されれば、その過半数の9名以上が支持する理事が会長に就任しますが、「理事候補者」の一部が社員総会で承認されないと、過半数の人数が変わってくる結果、誰が会長に選ばれるかも変わってくる可能性があります。この意味において、6月の社員総会も、今回の選挙と同様に、JARLの未来にとってとても重要です。
なお、2020年6月の社員総会で理事候補者の承認・不承認を決める社員は、今回の2020年JARL選挙で選ばれる社員ではなく、現職の社員(2018年のJARL選挙で選ばれた社員)です(もうすぐ任期が切れる社員が、次の2年の理事を選任するルーティンになっていることの是非についてもいろいろご意見があろうかと思いますが、ここでは論じません。)。
今回の2020年JARL選挙で選ばれた社員は、2021年6月の社員総会から、社員として議決権を行使します。2019年の社員総会のように、理事解任議案が出されたりすると、それを審議するのは、今の社員(2018年のJARL選挙で選ばれた社員)ではなく、今回の選挙で選ばれた社員です。この意味で、今回の社員選挙は、JARLの近未来を決める人たちを決めるという意味で、とても重要な選挙です。それとともに、今年の選挙と社員総会で選ばれる理事は、解任議案など出されないようなJARL運営をして頂きたいものです。
理事の役割と責任
専務理事には報酬が支払われます(現在は900万円/年)。その他の理事は、交通費は支給されるものの、無報酬です。私は、この理事の皆さんのボランティア精神に、とても強い感銘を受けています。
理事会は、(原則として)多数決で物事を決めます。「理事候補者」が社員総会で全員承認されれば、過半数は9名ということになります。
17人の理事のうち、JARLの業務を執行する権限を有するのは、会長と専務理事の2名のみです(JARL定款第23条第2項、第4項)。よって、この2名の責任は重大です。JARLの失政の責任は、この2名に帰せられると言っても過言ではありません。
とはいえ、役職のない理事も、単なる名誉職ではありません。会長と専務理事の2名の業務執行を、理事会での審議や決議を通じて監督するという、重大な任務を負っています(一般社団法人および一般財団法人に関する法律第90条第2項第2号)。もし、JARL理事の中に、「理事は会長・専務理事のやることを絶対に支えないといけない」と考えている方がいらっしゃれば、その考えは改めて頂いた方がよいと思います。忠臣は、時には主君の誤りを諫めることも必要だと思うのです。なお、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第111条は、理事のJARLに対する損害賠償責任を規定しています。
(役員等の一般社団法人に対する損害賠償責任)
第111条 理事、監事又は会計監査人(以下この款及び第301条第2項第11号において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(第2項以下略)
理事の責任は重大です。
2020年JARL理事選挙の候補者
さて、2020年JARL選挙において、全国理事(全国の区域内の理事の候補者)は、以下の方々です。定数5人に対し8名の方が立候補されています。
候補者名 | 現職/元職/新人 |
JG2GFX 種村一郎 | 現職 |
JA8LJF 佐々木淳一 | 新人 |
JH1NLL 安部慈孝 | 新人(現・栃木県支部長/社員) |
JI1DWB 大矢 浩 | 現職(推薦理事) |
JA1NVF 吉沼勝美 | 現職 |
JG1KTC 髙尾義則 | 現職(会長) |
JH3GXF 安孫子 達 | 現職 |
JA8DKJ 三井 武 | 新人(現・石狩後志支部長/社員) |
各エリアの理事(「地方本部区域毎の理事の候補者」)としては、以下の方々が立候補され、1エリアと4エリアで、選挙が行われることになりました。
1エリアは以下のおふたりです。
エリア | 候補者名 | 現職/元職/新人 |
① | JH1LWP 島田守康 | 現職 |
① | JH1XUP 前田吉実 | 元職(現・関東社員) |
4エリアは4人で争われます。
エリア | 候補者名 | 現職/元職/新人 |
④ | JH4GQC 高路 勲 | 新人 |
④ | JH4NMT 松田佳之 | 新人 |
④ | JE4WWK 金子由次 | 新人(現・島根県支部長/社員) |
④ | JA4DLF 綱島俊昭 | 現職 |
以下の方々は、無投票で当選されました。
エリア | 候補者名 | 現職/元職/新人 |
② | JA2HDE 木村時政 | 現職→無投票当選 |
③ | JR3QHQ 田中 透 | 現職→無投票当選 |
⑤ | JA5SUD 森田耕司 | 現職(副会長)→無投票当選 |
⑥ | JA6HUG 中村信雄 | 新人(現・福岡県支部長/社員)→無投票当選 |
⑦ | JA7AJH 尾形和俊 | 現職→無投票当選 |
⑧ | JH8HLU 正村琢磨 | 現職→無投票当選 |
⑨ | JA9BOH 前川公男 | 現職→無投票当選 |
⓪ | JF0JYR 髙橋哲也 | 現職→無投票当選 |
各候補者のさらに過去の経歴をご覧になりたい方は、おなじみ「アマチュア無線に関するデータ職人」JJ1WTL本林良太氏(現関東社員)の力作「一般社団法人化後の理事・社員」をご覧下さい。JARL選挙の投票先を検討する上で必見の資料です。
繰り返しになりますが、候補者の方々はいずれも、無給の理事職に就いてJARLのために働こうとしている方々であり、私はいずれの候補者の志に対しても尊敬の念を禁じ得ません。その上で、個々の選挙に関する私なりの考えは、後日項を改めて述べたいと思います。
(2020-02-27 記)
(2020-02-27 22:46 地方理事立候補者の表を3つに分割、修正)
追伸:私、7K1BIB/山内貴博は、2020年JARL選挙において、関東社員に立候補しています。このように、法律家としての知識・経験を生かした情報発信を続けて参ります。よろしくお願いいたします(拝)。
JARL選挙立候補に当たっての所信(2020年関東社員)
4エリアの地方本部長は現職のJA4DLF綱島さんです。ケータイで見るとダンずれしてるようです。
DE JH2DFJ 岩田泰典
すみませんご指摘ありがとうございます。表を作り替えました。
[…] JARL選挙は何を選ぶのか★★★ […]
[…] 別稿「JARL選挙は何を選ぶのか」でも書きましたとおり、無投票当選された方も、これで「理事に決まり」ではありません。あくまで「理事候補者」であって、6月の社員総会で否認される(理事に選任されない)可能性があることにご留意下さい。 […]
[…] JARL選挙の仕組みについては、改革派メンバーの7K1BIB山内貴博(関東社員候補者)による記事「JARL選挙は何を選ぶのか」をご覧下さい。 […]