【読み解き】「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正案」(1)

2022年11月16日(水)に公表、意見募集が始まりました。締切りは12月16日(金)です。

総務省パブコメ「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正案に対する意見募集」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000567.html?fbclid=IwAR2psXKhvCdF1ggd0SlKkTx9PHWhshiVlouGnRLXVRxhxSTNfXsmi7PCM28

資料1だけで150頁超。とても大部な改正案です。例によって改正法令案を読み解きます(以下の解釈は公表された資料(1~4)に基づく、現時点での私なりの解釈です。今後、追加情報や再考により修正することがあり得ます。)。

概要

公表当日の私の一連のツイートはこちら

JJ1WTL本林さんのブログ記事(とても詳細です。必読)

パブコメ募集:ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等(1)
https://jj1wtl.at.webry.info/202211/article_14.html

パブコメ募集:ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等(2)
https://jj1wtl.at.webry.info/202211/article_15.html

パブコメ募集:ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等(3)
https://jj1wtl.at.webry.info/202211/article_16.html

体験機会の拡大・体験局制度の廃止

個人局・社団局を問わず誰でも、従免を持たない人に体験運用をさせることができるようになります。体験局を開設することも不要。体験者の年齢/家庭内/学校内に限る等の制限も一気になくなります。

(1) ただし「交信の最初と最後は有資格者が行う必要がある」点は変わりません。体験者がCQを出したら違法運用になってしまいます。

(2) 体験者へのレクチャーが求められることになりました(「無線技術に対する理解と関心を深めるとともに、当該操作に関する知識及び技能を習得できるよう、適切な働きかけに努めるものとする」)。「面白かったね、はいおしまい!」ではダメということです。

ということで、体験運用を企画する側に、それ相当の準備と心構えが求められます。

(3) 「体験局」制度は、なくなってしまうようです(泣)。

8J1YABと8J1YAOというふたつの体験局に関わった経験から言うと「体験局という特別な免許をもらっている」ことが、体験運用を実施する側のモチベーションになっていたことは事実としてあります。8J1コールで体験運用CQを出すと、交信相手を見つけやすい、という効果もありました。

昨年、三親等内の親族や教職員の監督下で小中学生が体験運用できる制度が設けられましたが、実際の運用例を聞いたことがありますか?私はほんの数回しか聞いたことがありません。制限を撤廃したからといって、体験運用を企画する人はそんなに増えるでしょうか・・・。やはり、体験運用に熱意のあるグループによる体験局の存在は大きかったと思います。

せっかくアマチュア無線界に定着した体験運用が、体験局制度の廃止により廃れてしまわないか、とても心配です。何らかの形で体験局は残して欲しいと強く思います。そこで、

A案)今回の改正後も、電波法施行規則第34条の10第1項第2号として、「臨時に開設するアマチュア局」での無資格者の運用が残ります。ですが、不思議なことにこの詳細な条件を定める「告示」が見当たりません。JJ1WTL本林さんが読み解かれたように、おそらくこれは、「(4)大規模国際イベントで,レシプロ対象外の外国人ハムも運用できる記念局」(8N23WSJなど)の根拠条文(この条文に基づいて、イベントごとに個別に告示を作る)と思われますが、せっかくですのでこの条文に引っかけて、従来型の「体験局」を認める告示を作っていただけないでしょうか。一般局の体験運用と差別化するために、①体験者のCW運用OK、②体験者のCQもOK、という体験局はどうでしょうか。

(まあ、①はCW通信は有資格者でないとダメとする電波法第39条第2項との関係で難しく、②は、最初と最後は有資格者がするから「第三者のためにする行う通信」には当たらないとする総務省の説のキモに当たる部分(→JJ1WTL本林さんの記事の「それって『第三者通信』じゃないの?」ご参照)ですから、、CWもCQもOKの体験局は難しいかとは思いますが・・。)

B案)「体験局」制度自体の廃止はやむを得ないにしても、「主として体験運用を行う局」については、「8J/8N」タイプの特別なコールサインをいただけませんでしょうか。

(5) 体験局制度が本当に廃止されてしまうのであれば、せっかくの体験運用を廃れさせないために、JARLには、体験運用の推進運動を期待したいと思います。体験局の経験者が集まり知恵を絞って、体験交信やレクチャーのシナリオ、記念になる体験証等々の「体験運用セット」を用意して欲しいところです。こどもの日、あるいはアマチュア無線の日を「体験運用の日」に制定するのはどうでしょうか。

ところが、2022年11月の理事会で、髙尾会長は「体験局・ニューカマー支援委員会」設立の提案を否決しました。会長の強い影響下にある「会員増強組織強化委員会」にやらせようということのようですが、その委員長は体験局に(おそらく)関わったことのない理事です。とても心配です。なぜこんなことになってしまうのでしょうか。

従免と局免の同時申請

「開局」申請書の「特例様式」ができます。従免の欄に「従免同時申請」というチェックボックスが用意されます(別紙1の35枚目)。

今までは、まず従免を申請し、従免が届いてから、開局申請書を提出していました。書類が2往復しますので、大幅に時間がかかっていました。今後は、従免申請と局免申請が同時にできるようになるので、ニューカマーが国試や講習で合格してから開局するまでの時間が大幅に短縮されそうです。とてもよい改正だと思います。

私の予想は、2通の申請書を同時に提出できるようにする、というものでした(拙稿『「技適」を利用した免許手続きの簡素化とは?』の「2通の申請書を同時に提出?」)。総務省はさらに踏み込んで、新しい1通のフォームを作ってくれました。

では、4アマから3アマにグレードアップしたときはどうでしょうか。「変更」申請書の「特例様式」にも「従免同時申請」というチェックボックスが用意されています(別紙1の41枚目)。なので、「3アマの従免申請」と「局免に18MHzを追加し、出力を50Wにパワーアップする変更申請」も同時にできる(2往復せずに済む)ことになります。

ただし、これらの「特例様式」は、技適機種だけの局(=ライトユーザー)しか使えません。

例えば、

①4アマ取って技適機種で開局!
→②先輩に古い無線機もらって、JARD/TSSの保証を受けて増設!
→③3アマ合格!

というパターン、結構あると思うのですが、いったん非技適機種を持ってしまったが最後、この「特例様式」は使えません。今までどおり、④3アマの従免申請→⑤3アマの従免受領→⑥「局免に18MHzを追加し、出力を50Wにパワーアップする変更申請」とやらなければなりません。

「特例様式」を使える条件を、

備考1 この様式は、次の全てに当てはまるアマチュア局にかかる変更申請及び届出に限り使用することができる
(1) 空中線電力が50W以下の無線設備を使用するもの
(2) この様式にかかる申請又は届出において工事設計の変更を含まないか、これを含む場合は、適合表示無線設備の増設のみであること
(3) 移動するもの
(4) 個人が開設するもの
(5) 人工衛星等のアマチュア局でないもの

としていただければ、いったん非技適機種を持ってしまった局でも、この特例様式を使ったアップグレードをすることができそうです。意見を出したいと思います。

電波型式・周波数・空中線電力を含む一括表示コードの導入

今でも、電波型式の「一括記載コード」がありますが、電波型式と周波数と空中線電力を含むものに変わります。今回の改正が施行されれば、局免の記載はこうなります(別紙1の68枚目):

移動しない局移動する局
1アマ1AF1AM
2アマ2AF2AM
3アマ3AF3AM
4アマ4AF4AM
レピータATR

「1AF」というのは、「136kHz帯~249GHz帯まで全部」「全ての電波型式」「出力1kW」という意味です。つまり、従免に応じて最初から「全部のせ」で免許してくれる、ということです。

私は「電波型式に最初からFreeDVは入れて欲しいな・・」程度に、チマチマしたものを考えていました(拙稿『「技適」を利用した免許手続きの簡素化とは?』)。ですが、総務省は、私の予想を良い方向に裏切ってくれました。驚きました。

総務省:「周波数は、最初から『あなたの資格で出られる全バンド』あげちゃう」
総務省:「電波型式は、最初から『全ての電波の型式』あげちゃう」
総務省:「出力は、最初から『あなたの資格で出られる最大出力』あげちゃう」

(1) さて、どんなメリットがあるのでしょうか。周波数帯、電波型式、出力を、最初から局免にめいっぱい書いておいてくれれば、

「局免の記載事項の変更」がなくなる
→変更「許可」でなく「遅滞なく届出」で済む
総通の審査終了を待つ必要がなくなる

ということになります。

技適機種の場合、買ってきてすぐ使って大丈夫です。
非技適機種の場合、JARD/TSSの保証書が発行されれば、使って大丈夫です。

ただし、どちらのケースでも、総通への「遅滞なく届出」はしましょう。

今までは、「局免に変更がない限り」すぐ使って良い、でした。
今後は、どんな場合でも、すぐ使って良いことになります。

なぜなら、どんな場合でも、局免に変更がないことになるのですから。

(2) 今までは、変更申請・届をすると、新しい局免が発行されていましたが、今後は、新しい局免は、開局の時と、5年ごとの更新(再免許)の時しか、発行されないことになると思われます。

(3) 今回の一括記載コードの改正は、新しい局だけでなく、既存の局にもメリットがあります。何の手続を取らなくても、局免にこの新しいコードが書かれているものとみなす、という大盤振る舞いです(資料2の24枚目)。変更手続は要りません。

(4) ただし、工事設計書(無線機を1台1台書く欄)が無くなるわけではないです。無線機を増設した時に、総通に「遅滞なく」届出しなければいけない点は、総務省として今回は譲れなかったようです。将来に期待しましょう。

(5) 本当は1kWの落成検査をきちんと受けていない局がこっそりリニア入れて1kW出していた場合、今までは、電波利用ホームページのデータベースでその局のコールサインを検索すれば「200W」(または「100W」「50W」「10W」・・・)と表示されたので、オーバーパワーかどうか、ある程度推測できました。「ローカル局にバレたら大変・・」と、オーバーパワーへの抑止力になっていたと言えます。

ところが、今後は、電波利用ホームページのデータベースでは、1アマ固定局は一律「1AF」となります。ぜんぶ1kW局です。「あいつ、オーバーパワーじゃないか?」と思っても、データベースの検索だけでは尻尾をつかめないということになってしまいます

「技適またはJARD/TSSの保証でいける200W以下の局」と、「落成検査が必要な200Wを超える局」は、別のコード、例えば「1AF」と「1AS」などと、分けた方がよいと思います。意見を出したいと思います。

その2に続く・・

(2022-12-13 記)

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