裁判所がJARLの会計帳簿を開示するよう命令

一般社団法人であるJARLの「社員」の任務・権限は、年1回の社員総会での議決権行使ばかりではありません。法律が認めている重要な権限のひとつに、「会計帳簿閲覧・謄写請求権」があります(一般社団法人・財団法人法第121条第1項)。

(会計帳簿の閲覧等の請求)
第百二十一条 総社員の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する社員は、一般社団法人の業務時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

2 一般社団法人は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う社員(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該一般社団法人の業務の遂行を妨げ、又は社員の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該一般社団法人の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

「会計帳簿」とは、JARLの社員総会で承認にかけられる決算書類のもととなる、詳しい会計資料のことです。「仕訳帳」や「総勘定元帳」がこれに当ります。JARLの社員が総数の10分の1以上(今、社員は128名ですから、社員13人以上)が集まれば、会計帳簿閲覧・謄写請求権により、JARLの詳しい会計資料を閲覧(見る)だけでなく、謄写(コピー)することも認められているのです。

JARLの社員総会では「決算の承認」が必ず議題となり、毎年、JARLのお金の使われ方について多くの質問がなされますが、専務理事の曖昧な回答で煙に巻かれてきました。ですが、JARLの収入は、ほとんどが会員から預かった会費です。その会費を執行部が何にいくら使っているのかが開示されるのは、考えてみれば当たり前のことではないでしょうか。ですが、JARLでは、その当たり前のことが、ずっとベールの向こうに隠されてきていました。このベールを剥がす権限が、会計帳簿閲覧・謄写請求権です。今まで、この権限が行使されたことは、なかったかも知れません。

今年、2020年6月の総会にかけられる2019年の決算も、また5430万円以上の赤字、しかも執行部が作成した予算の段階では赤字幅は3746万円だったのに、1684万円も赤字幅が拡大しています。決算書の詳しい中身が分からなければ、承認するかどうか判断できない・・・そう考えられた16名の社員の方が、私(弁護士山内貴博)を代理人として、この会計帳簿閲覧・謄写請求権を行使されました。

なお、16名の社員の方々は、必ずしも「改革派」の方たちばかりではありません。

令和元年度の決算案が第50回理事会で可決された5月23日(土)の翌週、5月25日(月)に、社員16名は、JARL髙尾会長に対し、会計帳簿の謄写をさせるよう求める内容証明郵便を送付しました。ところが、5月28日(木)になっても、JARL顧問弁護士を通じ、「コロナで担当者が揃わないのでまだ検討している。翌週に郵便で弁護士山内宛に回答する」との回答しかありませんでした。

引き延ばしに遭っていると判断した社員16名は、やむなく5月29日(金)に、東京地方裁判所民事8部に、JARLを相手取って、会計帳簿の閲覧・謄写を求める仮処分を申請しました。6月4日(木)に、JARL側は、会計帳簿の閲覧・謄写には応じないとの答弁書を提出してきました。6月5日(金)に開かれた第1回の裁判期日(審尋期日)で、裁判官はJARL側に対し、「会計帳簿を自主的に開示するつもりはないか」と尋ねましたが、JARL側は拒否、裁判官は直ちに審理を終結しました。

そして、本日(6月8日(月))、社員16名の請求を全面的に認め、JARLに対し、「仕訳帳」と「総勘定元帳」の全面開示を命ずる決定を下した次第です。

仮処分決定は以下のとおりです(一部墨塗り)。

JARL執行部が、社員の正当な権限の行使に応じず、裁判まで起こさざるを得なくなったのは、とても残念です。JARL執行部におかれては、裁判所の命令にしたがって、会計帳簿の閲覧・謄写に速やかに応じられることを望みます。

(2020-06-08 21:40 記)

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(以上、2020-06-09のツイートを追記)

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(以上、2020-06-10のツイートを追記)

15件のコメント

  1. 興味深く拝見しました。
    最後の文を読んで気になったのですが、これでもJARLが帳簿の開示をしなかった場合、さらなる強制力ある打ち手、ないしはJARLへの処罰はあるのでしょうか?

      • ご回答ありがとうございます。今後について、注目します。 (開局1年目のビギナーより)

  2. 会計のことさえ把握できてない社団法人が生きながらえてきたことだけでも不思議です。山内さんのご活動に敬意を表します。

  3. 法人としての、最低限の、情報開陳も出来ない? Confiming証明の為に「QSL」するのであって。又、一国一城の「*ARL」は電波研究・国際的な #アマチュア無線 の側に立って、紛争処理もしなければならない。総通における、無線家側の利益代表としての提言を出す義務も。★弁護士稼業の方・総通出身の方。★所謂、法的なプロの論を聞かない。#JARL はすでに壊れている #JS2GAO #アマチュア無線

  4.  ここまで酷いとは思っていませんでした。何故隠すのか疑問です。何らかの不正をしているのでしょうね。真っ当な業務をしているのであれば隠す必要はない。
     このままの状態が続くなら退会を考えます。いまはほとんどがQSLの転送に利用しているだけなのですが、紙QSLが必要なければ電子的なQSLで十分に事足りているので、JARLの存在自体の必要性がなくなってきている。
     魅力的なJARLになることを期待したい。

  5. 素人ですが長年会費を納めているものの立場として、私もできれば会計資料を見てみたいものです。所管しているのは総務省ですよね、多分総務省からのお達しか何かあれば動くのかもしれませんね、何にも隠す必要のある事項だとも思えないのですが。

    これからも注目してみてまいります。

    • 厳密にいうと、総務省はJARLの監督官庁ではないのですが、必ずや、総務省も注目していると思います。このようなことで総務省の注目をうけるのは、JARLとして恥ずかしいことと思わないといけません。引き続きお知らせして参ります。

  6. 7M4GOM
    最近 始まったことではないようです、数年まえになりますが 会長も参加した地区大会で 会計に関する質問をしたところ 「その件に関しては 別室でお答えします」と私は 参加者全員の前で説明してほしかったのですが 結局 適当にあしらわれてしまった事がありました。あの頃からの積み重ねでどう仕様もなくなっているのかもしれませんね。よって 見られては困る形になってしまっているのかも?。
    これを機にガラス張りとなれば良いのですが このままの状態が続くなら 間もなく会費を納める月になりますので退会を考えます。私にとってはカード転送をお願いするのが目的になっていますので。

    • コメントありがとうございます。JARLは会員組織なのに、秘密主義が横行しています。「会員ファースト」などという標語とは真逆のことをしていると思います。

  7. 私は、2007年くらいには、公益社団法人への移行を目指していたはずのJARLが、急に一般社団法人への移行に方針変更したことにとても違和感を感じました。2011年の通常総会で否決されましたが、同年の臨時総会で方針が可決されました。
    公益社団法人になるためには、認定のための審査が必要で、一般社団法人は届出となります。従来の社団法人からの移行については、条件が異なっていたのかも知れませんが、私は認定のための審査から逃げた可能性もあるのではと考えたりしました。
    一般社団法人の会計帳簿の保存期間は10年間のはずですが、社団法人時代の帳簿の扱いはどうなっているのでしょうね。一般社団法人になってから、まだ10年たっていませんが。

    • 私は2007年当時は無線界から離れていたので、法人移行期のことをリアルタイムには知らないのですが、公益法人に必要な体制を整えられないと思ったのかも知れませんね。今の体制が変われば、裁判をやらなくても、過去の会計帳簿を調べることはできると思います。

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